「監督。質問よろしいですか?」
「許可します」
「情報は非公開ということですが、俺たちが命を落とした経緯は家族や学校側にどう伝わるんでしょうか」
「一回目のプログラム同様、事故という形になるわね。細かな事故内容はプログラム終了までに考えておくわ」
「…生き残った者は、三月のナショナルトレセンに参加出来ますか?」
「優勝者の精神状態によるわ。けれど、先程伝えたように前回優勝者のさんは日常生活に復帰するのに一年掛かったから、 余程メンタルの強い子じゃないと厳しいでしょうね。…さんはどう思う?」
「…」
「ふふ、緊張しているのかしら?ごめんなさいね。さんは都選抜の子たちとは初対面だったものね。 渋沢くん、他に質問は?」
「…、……ゆ、」

「あたしが勝ったら第三回にもまた参加させられるんですか?」

「…あらあら、駄目よさん。今は渋沢くんの質問を聞いていたのに。渋沢くん、何か言い掛けていなかった?」
「……いえ、俺の質問は以上です」
「そう?それじゃあ、さんの質問に答えるけれど――」









地を這うような低い音が体の真ん中から響く。
こんな時でも腹は減り、機能を維持する為に必要な栄養を摂ろうとするが、正直、今はなにも口にしたくない。

(心と体は別、か…。)

口の中に溜まった唾を嚥下するのは何度目だろうか。 体は空腹を訴えているし、酷く喉も渇いている。一度手を伸ばしたら満たすまで止まらないだろう。


「これが第一回目の放送ね。と言っても、まだ何の動きもないから話すこともないんだけれど」


動くか、止まるか。 スタートは十三番目。四と同じく不吉とされる数字じゃなかっただろうか。この手は誰が詳しかったかな。 …ああ、しまった。また脱線している。
隙間風にさえ過敏になっているにも関わらず思考は至って平常で、 平常だからこそ既に俺の精神が歪んでいるのではないかと、やはり平常な思考で己に問う。

恐らく皆俺と同じようにどこかの教室に隠れているんだろう。
皆が皆そうして止まっていれば事態は暗転することはないが、好転もしない。


「そうそう、説明の時にも言ったけど二十四時間経っても死亡者が出なかった場合 皆の首輪が爆発することをしっかり頭に刻んで、生き残る為にそれぞれ最善を尽くしてください」



こうしている間にも時は残酷なほど正確に刻まれ、俺たちを死へと真っ直ぐ連れて行く。



「このまま何の動きもなく二十四時間のタイムリミットになったらあなたたちに期待している 皆様も残念がるでしょうし……そうだ、次の放送までに死亡者が出なければ禁止エリアを設定しましょう」


二十四時間。一日がこれほど長いと思ったのは初めてかもしれない。 練習に明け暮れる毎日では二十四時間はあっという間で、藤代や中西は遊ぶ時間が足りないので 三十時間にして欲しいなんて無理な願いを口にして三上に鼻で笑われていたこともあったな。



白んで来た空に顔を上げる。晴れやかな冬空だ。
急に息が苦しくなって、窓を開けるべく立ち上がるも、座り続けていた所為で痺れた足がふらりと傾く。 妙な情けなさに渇いた唇の隙間から短い息が落ちた。


「たった今、小島有希さんが死亡しました」


カララ、窓を開ければ車の音の代わりに鳥の鳴き声や虫の音が頬を撫でる。
木々の合間で光るのは海だろうか。仄かに掠める潮の香りに、改めて遠い場所に来てしまったんだと目を伏せた。


「…嫌な光景だ」