死にたくない。死にたくない。死にたくない。

頭の中で声がする。 何度も、何度も。同じ言葉を繰り返す。 ずっとだ。ずっとなんだ。 あの教室を二番目に出て、歩いた先に立っていた椎名に何か言われた気がしたが、碌に聞かず走り抜けた。

死にたくない。死にたくない。死にたくない。

全員で協力するなんて言って、土壇場で裏切るんだろ? 誰も死なずに二十四時間経ったら全員死ぬんだ。 そしたらギリギリになって誰か殺すんだろ? 一番に切り捨てられるのはどうせ俺なんだろ?

死にたくない。死にたくない。死にたくない。

俺にはサッカーしかない。ずっと必死だった。青春の一ページなんかじゃないんだよ。 俺にはこれしかないから、生き残る為にいつだって必死にしがみ付いて、 誰に何を言われたって嫌な顔されたって俺が生きる為になんだってやった。 こんなところで終われるか。帰るんだ。帰って、また、


「死にたくない。俺は死なない。帰るんだ」


また…? また、なんだ?サッカーをするのか。当たり前だ。そうだ、だって俺にはそれしかない。 だけど、なんだ?何か見落としている。



サッカーって、一人でするもんだったっけ?



俺の周りには、誰がいた?

サァ、と、目の前に色が戻り、音が流れ込んでくる。
ここはどこだ。そうだ、学校。廊下。何階?―思い出せない。どこをどう歩いて来たんだ? なんだ?わからない。ずっと雑音みたいに何かが響いてた気がするけど、何だ?

もぞり、と、何かの塊が動く。なんだ?目の前にあったのに気付かなかったぞ。なんだこれ。なんで、
――なんで、真っ赤なんだ?


「そーか、よ…奇遇だな、」


喋った!ヒト?誰だ、…黒川?
背中になに生やしてんだよ。もっとはっきり喋れよ。何なんだよっ!


「俺たちだって死にたくね、…し、帰りてぇ」


死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない


「…死にたく、ないんだ」


そうかよ。お前もかよ。死にたくないのはお前も同じか。

ギシ、一歩、ギシ、二歩、
後ろに下がる度に俺の重みで床が悲鳴を上げる。
どこも怪我してないのに、同じタイミングで俺の体も悲鳴を上げる。

進行方向に体を向けようと黒川から目を逸らす間際、ぶつかったデカイ目に息を呑んだ。
……なんだよ、お前、また俺なんかに声掛けたのかよ…椎名。


一人死んだって放送があっていよいよゲームが始まったから俺も生き残る為に殺さなきゃと思ってボウガン構えて、 誰かに会ったらとにかく殺される前に殺すんだって廊下歩いてた俺に、お前、俺だってわかって声掛けたよな。 間宮って俺の名前呼んだよな。俺がボウガンで狙っても逃げないで、何度も説得しようとしたよな。

馬鹿なやつ。俺、あの時お前の話聞かなかったじゃん。
スタートしたばっかでもそうだったのに、死亡者出てから武器持ってるやつに平気で声掛けんなよ。
しかも俺だぞ?俺ら元々大して仲良くねえじゃん。殺されるって思わなかったのかよ。
何で椎名も黒川も、こんな時に他人のこと気に掛けられんだよ。ばっかじゃねえの。


矢を全部使ってしまったことを思い出したが、拾いに戻る気にはならなかった。