「知ってるわよ。説明の時に西園寺さんが言ってたじゃない」
「記憶力に問題がないようで何より」
「さっきから人のこと馬鹿にしてるの?」
「馬鹿にはしてない。変な子だと思ってるだけ」
「…それもそれで良い気分ではないわね」


調子が狂う。彼女に会ったのは今日―日付が変わってしまったので正確には昨日が初めてだ。
桜上水と飛葉が対戦した時向こうにマネージャーはいなかったので問うたところ、 彼女は今回の合宿に手伝いとして呼ばれただけでマネージャーではないらしい。
集合場所やバスの中でも飛葉中の三人と一緒に居て、素っ気ない態度ではあったものの、 あの癖のありそうな飛葉中キャプテンが彼女の存在に眉を寄せる様子もないので、 きっとそれなりに親しい関係なんだろうと思っていた。



第一印象は可もなく不可もなく。変わったのは、世界が歪んだあの教室。



「バトルロワイアル」。言葉の意味は知っていた。
けれどそれはフィクションで、フィクションでなければならなかったのに―、









「国のトップの方々がBR法を甚く気に入ったそうで、実際にプログラムを実施してみようと初めて試みたのが二年前。 対象は中学三年生ではなく一般国民には完全非公開。ランダムで選ばれたのは某県の中学校、一年三組。 生徒数四十名で、担任がプログラム実施を反対したから死亡者は四十名。優勝した一人の生徒を除いて、ね」


表向きには遠足のバスが崖から転落して、奇跡的に一名だけが生き残ったことなっているそうよ。
優勝した生徒は精神的に不安定だったから国が用意した施設で一年間療養をして、 漸く日常生活に戻れるくらい落ち着いたから、今年の春からまた学校に通い始めたの。 一年留年してしまったのは仕方がないわね。

原作と同じで優勝者は他県の学校に転校して、BRについては一切口にしてはならないわ。
勿論、優勝者は一生涯生活が保障されます。
優勝者がその後日常生活に戻れることもわかったから今回第二回目のプログラム実施が決まったのよ。
とは言えまだ試験段階だから、情報は一般に公開されません。

第二回目の参加団体に選ばれた東京都選抜サッカーチームから更にメンバーを厳選して、ゲスト三名を加えての十五名で今回のプログラムを行います。 選ばれたあなたたちはトップの方々から期待されているのよ。私も誇らしいわ。
…ふふ、ピンときた子が数名いるみたいね。 ゲスト三名の内サッカーとは全くの無関係者がいるのは何故か、それは、 彼女が記念すべき第一回プログラムの優勝者だからよ。


「はい皆、さんに拍手」


教室の中央の席に座っていた彼女の表情は一番後ろの席の私からは見えなかったけれど、 全員の視線に晒されてもピンと伸びた背中が揺れることはなかった。









「と言うか、さんだって変な子だから」
「何で?」
「私、銃持ってるのよ?こんな状況で平然としてるなんて変よ、変」
「優勝者を前にその銃を構えようともしない人に言われたくない」
「隙を見て撃つかもしれないじゃない」
「隙を見て撃とうと思っている人はそんなこと言わないよ」


やっぱり馬鹿なの?眉を寄せた彼女からは今にもそんな副音声が聞こえてきそうで、だけど不思議と不快には思わない。 ゆっくりと彼女が腰を掛けるベッドへ近づいても、彼女は気にする様子もなく草臥れた毛布に包まったままだ。


「怖くないの?」
「怖がって欲しいの?」
「違うわ。…でも、お願いがあるの」
「……どういうつもり」


とすん、隣のベッドに腰を下ろして微笑めば、私の手元に視線を落とした彼女は訝しげに目を細める。


「私、死ぬなら綺麗に死にたいの」


拳銃を差し出した私に、さんの口から今度こそ「馬鹿なの?」と声が零れた。