「よおやん。今日も暇そうやなあ」
「…」
「名指しで話し掛けられてんだ、諦めろ」
「あれに関わると疲れるから嫌」
「先輩に向かってあれって何やあれって!おいこっち向け!!」
「いつも以上に煩いんだけど。何なの」
「この前ゲーセンでボロ負けしたの根に持ってんだよ」
「コォラ柾輝!ボロ負けやない、ちーっとの差で負けたんや!」
「へーへー。 今から祭り行くんだけど、もどうだ?翼たちもいるぜ」
「興味ない」
「勝ち逃げは許さへんで」
「触んな」
「そもそもあれはな、機械やからあかんかったんや。俺の腕はまだまだあんなもんやない。射的で勝負や!」
「人の話聞けよ手ぇ離せ馬鹿」
「よっしゃ、今日こそ決着付けんで!負けた方は一週間昼飯代奢りな!」
「…この金髪泣かせて良い?」
「どうせなら財布空にしてやれ」



「そういやも合宿参加するらしいな」
「嘘やん!あいつ欠片もサッカー興味ないで」
「ぼくも驚いたけど、玲が手伝い頼んだって言ってたからほんとだよ」
なー。最初に比べりゃマシになったけど」
「無愛想」
「口悪い」
「協調性ゼロ」
「それ絶対あかんやん。監督も何であいつに頼んだんや?」
「さあね。でも俺たちの監督が決めたんだ。何か意味があるんだろ」
「チームのやつらと揉めなきゃ良いけど」
「頼んだよ柾輝」
「俺かよ」
「クラスメートじゃん」



「黒川、」









音の外れたチャイムにふっと意識が浮上した。何だか随分懐かしい夢を見ていた気がする。


(…始まった、か。)


聞き慣れた声のナレーションが語る現実離れした言葉に静かに目を伏せると、 歪んだ唇の隙間から意味を成さない音が漏れた。
人が一人死んだ事実を憂うより禁止エリアが設定されなかったことに安堵した自分に反吐が出る。
俺は自分で思っていたより随分と腐っていたらしい。くしゃり、前髪を握り潰す。

あの教室に居た時はスタートしたらさっさと翼たちを探そうと思ってたくせして、 廊下に出てすぐに確認した鞄の中身のあまりの頼りなさに、結局碌に教室も覗かず階段を上り、 怖気付いた足はずるずると速度を落とし終いにゃ歩くことを放棄して、考えるのも嫌になってそのまま現実から逃避した。


(ダサ過ぎんだよ。)


デイパックとか言う鞄から中身の減ったペットボトルを引っ張り出して頭にぶっ掛ける。 …真冬に何やってんだか。ふるりと頭を振って、額に張り付いた前髪を両手で押し上げた。


「いい加減腹括んねえとな」


タイミングの良いことに何か聞こえてきたし?
くいっと右の頬を持ち上げて両足に力を入れる。いつまでもサボってんじゃねえぞ。

デイパックを引っ張り上げる手が震えたのは、二月だってのに朝っぱらから水浴びなんざしたからだ。