初めて話したのは、確か五月。 二人一組になって互いの顔を描けという美術の授業で、当たり前のように男子は男子、 女子は女子と組んでいく中それぞれ余ったのが俺とあいつだった。


「お前友達作らねえの?」


毎時間会話らしい会話もなく無言で鉛筆を動かしていたけど、最終日のその日、何となく口にした疑問。
がやがやと騒がしい美術室の空気に感化されたのかもしれない。
突然の問いに驚いたのかは一瞬手を止め、視線はスケッチブックに落としたまま口を開いた。


「無駄」
「…何が?」
「自分で聞いたんでしょ」
「今の質問でその答えが返ってくるとは思わねえだろ」
「そう」
「必要ないってことか?」
「…そういうわけじゃない」
「じゃあどういうわけだよ」


こいつが転校してきて一ヶ月。クラス内に複数ある女子グループのどこにも所属せず、 休み時間に誰かと喋ってる姿は殆ど見たことないし、昼は誰の誘いも受けず一人どこかへ消える。
苛められている様子はなく、嫌われているわけでもないようだが、は教室で常に浮いていた。

俺の顔よりもスケッチブックを見ている時間の方が数倍長かった黒い瞳が、漸く睫毛の下から姿を現す。


「それ、あんたに関係ある?」


一匹狼を体現すると、彼女になるんだろう。
俺を見つめ返す冷え切った眼に抱いた感情こそ覚えていないが、それがを構うようになるキッカケだったのに間違いはない。









(見事にバラされてんな。)


現実離れした話を聞き慣れた声のナレーションが語る中ちらりと教室内に目を配る。 縦が五列、横に三列で並んだ十五の席は前後左右斜めと均等に距離が開けられていて、 そもそも気軽に話せる状況ではないが計ったように親しい者同士が隣にならないように座らされている。 ―俺の左隣にはがいるが、あいつはイレギュラーなんだろう。


「もう質問はないかしら?それじゃあ今からクジを引くので、呼ばれた者からデイパックを受け取ってスタートしてください。 スタートは二分置きに、その間教室から出なかったり、廊下で立ち止まっている者は射殺対象になるので各自そのつもりで。 …あら、不安そうな顔ねえ。 優勝者のさんには一番最後にスタートしてもらうから、皆そんなに気を張らなくても大丈夫よ?」


目が覚めてから一度も、とは目が合わない。
教室と言う空間でまたしても一人ぽっかりと浮いた彼女は、今なにを映しているのか。 同じ物を、見ているのか。