手繰り寄せた歪んだあたしを、それでも好きだと笑ってくれる?



幼馴染




「簡単には会えなくなる。そしたらきっと変わるよ」
「なにが?」
「心が。―距離と同じ。きっと少しずつ離れてく」

変わらないものはないんだって、あたしは痛いほどわかってる。
だったら最初から離れたままでいればいい。このままがいいの。

「…なんで、」
「……」
「なんで勝手に決めるの?前に、勝手に決め付けるなって言ったよね?だったらなんで俺の気持ち勝手に決めるんだよ」
「ちが、」
「違くない。離れたら俺がのこと好きじゃなくなるって言ってるのと同じだろ」

ぎゅっと掴まれた手に金色が食い込む。…痛いよ。でも、英士はもっと痛いんだ。
ごめん、ごめん、ごめんなさい。わかってるの。わかってるのに、あたしは


「だってあたし そんなに強くない…!」


いつだってあたしは自分を守るのに必死で、傷つかないように必死なの。
あたしは弱虫でずるいから、きっと今まで以上に英士を傷つける。自分が傷つきたくないから傷つけるの。最低でしょ?
会えないのが寂しくて他の誰かに縋るかもしれない。傍にいてくれる人を選ぶかもしれない。

今だって、ほら もうこんなに傷つけてる。


「傍にいてくれる人じゃないとだめだもん。英士はいてほしい時にいてくれないでしょう?」
「……そうだね。がどんなに辛くて俺に会いたいって言ってくれても、俺はすぐに会いに来ることは出来ない」

「だけど、」

「どんなに痛くても、傷ついても、俺はが好きだから」

だから好きなだけ傷つければいい。俺も傷つけるからお互い様だろ?傷つかない恋なんて最初からするつもりないんだ。

目線を合わせるようにしゃがみ込んだ英士に掴んだままの腕をぐいっと引かれて、
あたしは飛び込むように英士の胸に押し付けられた。
いつの間にか握らされていた金色のボタンが掌の中で悲鳴を上げる

「やっ…!やだやだ放して!嫌だ、違うっ!」
「違くない。もいい加減認めなよ、俺のことが好きだって」
「!ッ違う、違う!英士なんて好きじゃないっ…行っちゃうくせに、離れていっちゃうくせにっ……、」
「うん。でもどっちも譲れないから謝らないよ。代わりに文句は聞いてあげる」
「〜〜ッ嫌いキライきら――」

「だけどそれは聞きたくない」

金魚のように口をぱくぱくさせるあたしと目を合わせた英士が笑う。
顔が熱い。多分、ううん絶対真っ赤だ。(びっくりして涙も引っ込んだ!)

「ば、ばっかじゃないの!」
「なんとでも」

楽しそうな色を孕ませて音を紡いだ唇は弧を描き、あっという間に綺麗な微笑みに変わる。
当然その顔に悪びれた様子なんて一ミクロンもなく――



机の引き出しの奥から一度も開けたことのない袋を掴む。(何年も眠らせていた)(だって付けられなかったし)
薄ら中が透けて見える淡い桃色を開けて掴んだそれを光に翳せば、キラキラと色鮮やかに反射した。
自然と緩む口許をそのままにぐるりと左手首に巻き付けたブレスレットに手を添えて深呼吸

、そろそろ行くぞ」
「うん!」

一度だけ唇を落として、置きっぱなしの鞄を掴んで部屋を出る。
――ねえ英士。英士は気づくかな?手首で輝くこれ見て、なにを想う?

きっと少しだけ目を瞠って、すぐにあの 意地の悪い顔で笑うんだ。
やっぱりなって、わかってたよって、


「おっせえよお前ら!」
「悪い。てかいつも遅れてくる結人が言うな」
「あれ、そんなん持ってたっけ?可愛いじゃん」
「ありがとう」
「話逸らすなっつーの」
「ガハハ!まあ良いじゃん?」
「……、」
「なあに、英士?」

耳慣れた声に視線を向ければ、見慣れた涼しげな顔
かちりと視線がぶつかって、楽しそうに揺れた。

「俺のこと、好きでしょ」

「英士!?」
「はいはいかじゅまくんちょっと黙ろうかー」


だって英士はいつだって、偽りで塗り固めたあたしの心を容易く破ってしまうから


「嫌い」
「え、!?」
「あーあ、カッワイソー」

目を瞠った英士に満足して口許が緩む。…あぁだめだ、あたし今、きっとすごく緩んだ顔をしてる。
驚いた一馬の声も、楽しそうな結人の声も、眉を寄せた英士も、全部が全部、大切なんだ。
いつだってあたしのヒーロー。順位なんて付けられない、大切な幼馴染

「……―うそ、」

だけどあたしの一番はあなたにあげるよ。
(反撃の言葉は決まってる)(たった四文字。ただそれだけ)