一つずつ整理して足場を作って行けば良い。 幼馴染 派手な音を立てて高く上がる光に目を細める。 結人曰く完璧な順番に並べた花火は、だけどやっぱりいくつか不発で笑ってしまった。 「ちょ、テメ結人こっち向けんな!それ手で持つなって書いてあっただろうが!」 「そんな注意書き知りませーん」 「はしゃぐのは良いけど火事は起こさないでよ」 長袖を捲り上げて走り回る結人と一馬は本当に元気だと思うの。 やっぱりまだ寒いなぁと思いながらパチパチと手元で小さく火花を散らす花火を眺める。 静かになった花火を靴で踏みつけ、他の残骸の山に乗せて水を掛けて新しい花火を手に取ればポッと炎が浮かび上がるから驚いた。 顔を上げればさっきまで結人に追い掛け回されていた一馬がチャッカマン片手にしゃがみ込んでいた。 (瞬間移動…?)(いやいやまさか) 「ありがと」 「ん。…まだこんなにあんのか。結人のヤツ溜め込み過ぎだろ」 「一、二年前のもあるんじゃない?…あ、これ点かないや」 「じゃあこっち。四人でやる量じゃねーよな」 「あ、点いた。そもそも真冬に花火って時点で可笑しいよね」 「だな」 目だけを合わせて笑う。向かい合うあたしと一馬の間でぷっくりと頭を膨らませる線香花火。 「って昔からこれ好きだよな」 「うん。雷作ってるみたいで良いなって」 「あー、ぽいかも。ガキの頃五本くらい束でやって火傷したろ」 「よく覚えてるね。大きいのが作りたくて…でもあれ以来纏めてやるのは止めました。痛いのヤだもん」 「痕残った?」 「ううん、もう殆どわかんない。それっぽいのはあるけど別の怪我かもしれないし」 「そっか」 「…あ、」 「ん?」 「そういえばあの時、一馬泣いてたなあって」 「は?泣いてねえし」 「泣いたよ。火傷したあたしより一馬のが痛そうに泣くから涙引っ込んだもん」 「…そうだっけ?」 「うん。が火傷したのは僕の所為だって。一馬なんにも悪くないのにね」 「…、あーそこは微妙に覚えてるかも」 「ほんと?でも一馬はちゃんと止めたんだよ。危ないから止めようって言ってくれたのに、あたしは大丈夫だってきかなくて」 「そういやって昔は結構行動力あったっつーか、結人みたいな感じだったよな」 「探検行こうって暗くなってから家を抜け出したり?」 「そ。俺は怒られんのが怖くて止めんだけど、結局の後ついてってよ」 「懐かしいね。あの頃はあたしが一馬を守るんだって思ってたんだよ?」 「マジで?」 「マジで」 視線の下の小さな雷に照らされた顔が驚いたように目を丸くする。 そんな一馬を視線だけで見上げて、ふっと小さく笑みを零す。 「いつから逆転したんだろうね。先に行って手を引くのはあたしだったのに。やっぱサッカー始めてからかな?」 「……違う」 「え?」 「や、実際変わったのはサッカーがキッカケだけど、俺がを守るんだって思ったのはもっと前」 「もっと…て?」 「が火傷した時。あの時泣いただろ?いつも泣くのは俺で慰めるのがなのに、俺の前でが泣いたから」 「俺が守ってやらなきゃって、強くなろうって決めた」 「結局なんも出来てねぇけど」 「……そんなことないよ」 「え?」 「一馬はいつも、あたしのこと守ってくれてたよ。あたしの隣にいてくれたもん」 「…そっか」 「うん。…ねぇ、あの時に言ったこと覚えてる?」 「あの時?」 「あたしが火傷して一馬が泣いて、お母さんに手当てして貰ってる時に言ったの」 「……あー…わかった、かも」 「でも、もう時効だね。あの約束は別の子にしてあげて。ちゃんとか」 「なっ…!」 「一馬真っ赤ー」 「からかうなよ」 「ごめんごめん。でもあたし、ちゃんだったら良いなって思うよ。先のことはわからないけど、二人がずっと続いて行けば良いなって」 「……おう」 「あ、落ちた」 「次やるか?最後まで落ちなかったら願い事叶うんだろ?」 「んーん、今度は他のにする」 「もうね、願うだけは止めたの」 「願い事は自分で叶えるよ。一馬たちみたいに、自分で掴む」 「…ん、そっか。頑張れよ」 「ありがとう」 新しい花火に火を点けて立ち上がる。 今までのように当たり前に隣にいることは出来ないけれど、隣に一馬がいなくてもあたしはちゃんと歩いて行ける。 そしてそれは、一馬も同じ。依存し合ってたあたしたちは、お互いの幸せをいつだって願っていたんだから―― くるりと振り返った先、いつもと違ってあたしを見上げる一馬。 あたしの幼馴染がこの人で良かった。寂しいけど、繋いだ手はもういらないね。(だってさよならじゃない) 「ねぇ一馬、大好きだよ。今までもこれからも、あたしはずっと一馬が好き」 「……サンキュ。俺も、いつだってが好きだよ」 (ちゃんに言ーちゃおうっ!)(慌てて立ち上がる一馬に嘘だよと微笑んだ) |