錆び付いた鍵穴は回らない。……だけど、箱の中身が消えるわけじゃない。



幼馴染




「花火大会を開催しまーす!」

「…」
「……」
「………」
「ちょ、お前ら全員揃って反応薄っ!寒いからって脳まで凍ってんじゃねえの?」
「…、」
「あ、英士はダイジョブ黙ったままでつか寧ろ黙っててマイハートの為に」
「……ええと結人、今の季節わかってる?」
「んなの知ってるっつーの、冬だろふーゆ!」
「じゃあなんで花火?てかそれどうしたの?」

ついでに言えばさっさと座って。目立つから。
夏場のスーパーやコンビニに並んでいる手持ち花火セットをずいっと押し出すように掲げる結人。
四時にファミレス集合とか言い出したのは結人なのに、20分も(今日は早い方だけど)遅れて登場するなりあたしたちが座っている席へ来てこれだ。
周りの人たちの視線を集めまくっているからほんと止めて欲しい。
そんなあたしの本音を知ってか知らずか、「よくぞ聞いてくれました」なんて言いながら結人はあたしの正面に座る。
無駄に大きな荷物をぎゅうぎゅうと席に押し込めるから、隣の英士が迷惑そうに眉を寄せた。


「部屋片付けてたらふっと思い出してさ。ほら、夏に花火やろっつってオジャンになったろ?そん時の」
「あー、あったねそんな話。じゃあその花火掃除中に見つけたんだ?」
「や、思い出したから部屋中漁って見つけた」
「…お前それ結局散らかしてんじゃねーか。いい加減片付けろよそんで俺のゲーム発掘しろ」
「今度な今度!で、漁ってたらウジャウジャ出てきてよ、どーせなら一気にぱあっとやっちまおうかと思って」
「……もしかしてその鞄の中、全部花火?」
「おう!」
「多くね?てかお前どこでやる気?」
「んー適当にそこら辺で」
「手持ちだけならまだ良いけど打ち上げ系は苦情くるかもな」
「えー良いじゃん逃げれば。な、
「ごめん一馬に一票」

隣の一馬と顔を見合わせて頷けば、結人は不服そうに口を尖らせて一馬のジュースをずずずっと飲み干した。
当然のように一馬は怒るけどよくあることなので結人はさらりと流す。

「折角持ってきたんだぜー。ちょっとくらい怒られても良いだろ持って帰るとかダリィし」
「本音漏れてんぞ」
「おっといけね。つーかよ、花火やんねぇなら集まった意味なくね?」
「花火がやりたいから呼び出したの?」
「おー。だから中止とかマジテンション下がるわー結人くん」
「…我儘」

ぽつりと呟いた一馬に眉を吊り上げるかと思った結人は、だけど食って掛かることはなく両手を頭の後ろに組んでソファに凭れる。

「だってこのメンツでバカやれんのも後ちょっとじゃん?」

……あぁ、そうか。
結人はさらりと痛いとこを衝く。しかも笑顔だから性質が悪い。

ざわりと揺れた心を誤魔化すように、あたしは意味もなくストローを回した。


「どうせ結人のことだからここで断ったらギャアギャア騒ぐんでしょ」
「…英士?」
「しょうがないよ一馬。それにまだ夕方だし、住宅街から離れた場所なら大丈夫じゃない」
「さっすが英士!そうこなくっちゃ」
「…でも、そんな場所あるかな?」

首を傾げるあたしに英士はすうっと目を細め引き結んでいた唇が三日月に変わる。
…成程、愚問でしたかと肩を竦めれば上機嫌の結人が我先にと立ち上がった。



冬は日が落ちるのが早い。
コートの前をかっちり締めてマフラーに顔半分を埋めながら、楽しそうに打ち上げ花火を地面に並べている結人を眺める。
寒いのに元気だなー。傍らに置いたコンビニ袋には途中で買ったお菓子やペットボトルの水が山盛りだ。
(ちなみに水は飲むだけじゃなく花火の後始末用でもある)(水バケツなんて用意してないのは言わずもがな)

「おーい、見てないでお前もセットすんの手伝えー」
「はーい」
「マフラーとコート脱がないと燃えんぜ?」
「…寒いのに」
「花火やってりゃ暑くなんだろ」
「だと良いけど」

仕方なく脱いだコートとマフラーは畳んで鞄の上に。
寒い寒いと腕を摩りながら結人の指示に従って花火を立てていく。

「ねぇ、これ湿気てたりしない?」
「知らね。ま、全部が使えないってのは多分ねぇだろ」
「ふうん」
「…なーにチャン、寒くてご機嫌斜めってか?」
「……そんなんじゃないけど、」
「けど?」
「…こうやって、当たり前に一緒にはいられないんだなって思って」
「一馬と?」
「みんなと。一馬も結人も英士も、みんな離れて行っちゃう」
「……」
「三人とも無事に入団先が決まったのはあたしだって嬉しいよ?それはほんと。でも、……―ごめん、我儘だね」
「ぜーんぜん。―寂しいんだろ?良いじゃん、素直に言えば」
「…、簡単に言うなあ…」
「簡単だろ。が意地張んの止めりゃスッゲェ簡単なことだぜ?」
「……うん、」
「っし、準備完了ー!一馬ぁ、英士、始めんぞー!」

ぐしゃぐしゃとあたしの髪を乱暴に撫でて立ち上がった結人が、にっかし笑ってあたしに手を差し伸べるから、
(掴まずにはいられない)(それは、暗闇を照らす太陽)