馬鹿みたいな時間がいとしい。 幼馴染 「とが仲良い」 久しぶりに四人で集まった一馬の部屋 いつもの定位置で各々が好きなことをしている中、ぽつりと一馬が呟いた。 試験勉強の手を止めて顔を上げたけど、一馬はサッカー雑誌に視線を落したままだったのでよくわからないまま視線を戻す。 「最近とがスゲェ仲良い」 もう一度、今度ははっきりと言った一馬に今度こそあたしもしっかりと顔を上げる。 だけどやっぱり一馬の視線は雑誌に注がれていて、訳もわからず困惑するばかり。 助けを求めようにも結人はゲームに夢中だし英士は我関せずで読書中だ。(うん、いつもの光景)(期待はしてなかったよ) 「…えーと、一馬?」 「ん、」 「あたしとちゃんが仲良くしてるの、嫌?」 「別に」 「そう…、じゃあ何でちょっと不機嫌なの?」 まあ、実際は不機嫌というよりもっとこう、 「休みに二人で遊び行ったりしてんだろ。俺には声も掛けずに」 ……あーうん、やっぱり。これ、完全に拗ねてるよ。 拗ねた一馬はちょっとめんどくさい。どうしようかなーと内心苦笑しつつ視線を動かすけど、結人と英士は相変わらずだ。 ちょっとは助けようとしてくれても良いのに…結人はわかんないけど英士は絶対聞こえてるでしょ。 「ごめんね、態々教えることでもないと思って」 「久しぶりにの家行ったら留守だし、に電話しても出ねえし」 「あーうん、それってこの間のことだよね。映画観てたからちゃん気づいても出られなかったんだよ」 「俺も映画観たかった」 「そっか、えと、あの映画まだやってるし、ちゃんもう一回観たいって言ってたから今度二人で行けば良いんじゃないかな、うん」 「…今度行く」 「うん、ちゃんきっと喜ぶよー」 「は行かねえの?」 「え、あたし?あたしはもう良いかなー、一回観れば十分だし」 「ふうん。が誘えば行くのに俺だと断んのか」 「え、や、違うよ!?一馬がとかじゃなくて、折角のデートにあたしがいたら邪魔でしょう?」 「アイツも、俺が誘ってもと約束してるからっつって断るし」 「あ、来週の話?一馬サッカー休みになったんならデートしてきなよ。ちゃんにはあたしからメールしとくし」 「それじゃに悪い」 「いやいや、気にしなくても」 「アイツだって楽しみにしてたし」 「…あ、そうなんだ、はは、」 「…」 「……一馬さん?」 「………」 ここで黙るとか、あたしにどうしろと!? 確かにちゃんとは夏休みにケーキの作り方教えて以来仲良くなって、 それから何度か一緒に出掛けたりどっちかの家でお菓子作ったりしてるけど……。 さて、どうしたものか。睨むように雑誌を見つめたまま黙り込んだ一馬に苦笑い。 「なあ一馬、お前それどっちに妬いてんの?」 結人の声。ゲームに夢中だったんじゃ?と思いつつ視線をやれば 首だけで振り返っていた結人と一瞬だけ目が合って、でもすぐに結人の視線はゲーム画面へと戻された。 「別に妬いてねえよ」 「いやいや妬いてんだろ。照れんなって。で、どっち?」 「どっちも何も、ちゃんは一馬の彼女なんだから訊くまでもないでしょう」 「わっかんねーぜ?大事な大事な幼馴染が自分より自分の彼女と仲良くしてんのが嫌なのかも」 「……結人、楽しんでる?」 「あ、バレた?」 からりと笑う結人に呆れ声のあたし。 全くしょうがないんだから。ね、一馬?―そんなつもりで視線を向ければ、ぎゅうっと眉間に寄せられた皺。 ……一馬さん?どうしてあなたは難しい顔をして固まってるんですか? 「一馬…?」 「なーに固まってんだよお前は。…え、まさか図星とか?」 「……違ぇ、けど、違くない」 「……、え?」 「は、お前、何だそれ。結局どっちに妬いてんの?」 「…」 「おいおいまたダンマリかよ」 「…一馬?そんなに真面目に考えなくて良いんだよ?」 「……俺は、―」 「どっちもでしょ」 「二人が仲良いのは嬉しいけどそれで自分を仲間外れにされるのが嫌」 違う?と、どこか楽しそうに一言。 英士の言葉にぱっと顔を上げた一馬は、その勢いのままぐるんと首を回して英士を見た。 「どうせ一馬のことだから、二人が仲良くなりすぎて自分を相手にしてくれなくなったらとでも考えてたんじゃないの」 「……」 「お、図星か」 「…一馬、」 一馬が親しい人から仲間外れにされるのを嫌ってるのは知ってたけど、まさかここまでネガティブに考えていたとは……。 だってちゃんは一馬の彼女だよ?仲良くしてるのが男だったらまだしも女だし、てかあたしだし。 これは、何だろう…嫉妬されるほど仲良く見えることを光栄に思うべきなのか、意味は違えど彼女と同列に好かれていることを喜ぶべきなのか。 どっちにしても、 「一馬、ばか」 「なっ!」 「よく言った!ほんっと馬鹿だなお前ー。さみしんぼのかじゅまくんはこーしてやるっ」 「止めろ結人…!離れろっつーの!」 「ガハハッ!ま、安心しろって。たちに捨てられても結人様がずーっと一緒にいてやっから」 「うっわー嬉しくねー」 「言ったなバカズマ。もうお前なんて相手にしてやんねーかんな、英士と俺でハブにしてやる!な、えーし!」 「俺を巻き込むな馬鹿結人」 騒ぎ出した二人と嫌そうな顔をする一人を見ながら、ぬるくなったお茶を飲む。 …幸せに味があるのなら、こんな味かもしれないなあ。 (当たり前な時間が嬉しい)(こんなにも、しあわせ) |