クラスで騒げるのも後どれくらいかなー。 幼馴染 「花火?」 「そう。強制参加じゃないけど、折角だから今日の夜クラスで集まらないかって」 「勉強の息抜きにもなるからね。わたしたちは行こうと思うんだけどちゃんはどうする?」 登校日に久しぶりに顔を合わせた友人に告げられてううんと首を捻る。 受験組でもあたしのように比較的ゆったりペースの人もいれば、夏休みは本腰を入れて勉強三昧の人もいるので確かに良い息抜きにはなるだろう。 二人が行くなら行こうかなあ。 三年連続同じクラスで気の合う二人だけれど、彼女たちが揃って運動部に所属していたこともあって一緒に遊んだ回数はあまり多くはないのだ。 それに、思い出作りにも丁度良いかもしれない。二人の第一志望は地方の大学だから卒業してしまえば気軽に会うことは出来ないし。 「ん、行く」 「オッケ。じゃあ名簿に丸付けてくる…あ、シャーペン貸して」 「はいよ、お願いね」 筆箱の中から一本のシャーペンを渡すとあたしの前の席を借りていた彼女は人の集まる黒板へと向かって行った。 隣に座っているもう一人の友人は何気なく周囲に視線を走らせると幾分か声を落としてあたしの名前を呼ぶ。 「ちゃんは郭くんの志望校知ってる?」 「ううん、知らない。そういう話ってしないんだ」 「そうなんだ。……あのね、わたしも本人から聞いたわけじゃないから間違ってるかもしれないんだけど――。」 空が藍色に染まり始めた夜、蝉の声を聞きながら駅までの道を歩く。 花火をやるのは学校付近の河川敷で、クラスメートの大半が通っている塾が休みとのこともあって結構な人数が参加するらしい。 ちなみに帰り際に徴収していた参加費全てを花火代に当てるから飲み物などの差し入れは大歓迎だと発案者が言っていた。 近所から苦情が来ると面倒だから打ち上げ系は少なめにするとは言ってたけれどどうなることやら…人数が集まればそれなりに煩くはなるよね。 「!」 「……一馬?」 「今から花火か?」 「そうだけど、何で知ってるの?」 あたし教えてないよね?通り掛かったコンビニから出てきた一馬にこてりと首を傾げる。 「英士に聞いた。終わったら駅まで迎えに行くからメールしろよ」 「え、良いよ。何時に終わるかわかんないし」 「だったら尚更だろ。流石に日付変わる前には終わんだろうけど」 「それはまあ、補導されちゃうからね」 「とにかくちゃんとメールしろよ」 「や、だから、」 「俺がメールしてあげるから安心しなよ」 「お、そっか、任せた。じゃあ二人とも楽しんでこいよ」 突然介入した第三者の声に驚くことなく、それどころか当たり前のように納得した一馬はひらりと手を振ると家の方向へと去って行った。 残されたあたしといえば突然現れた姿に驚きと困惑混じりにぽつりと呟く―「……、英士」。 「こんばんは」 「…こんばんは」 「なに突っ立ってるの、早くしないと電車に遅れるよ」 「あ、うん。……あのさ、もしかして英士も参加するの?」 「さっきの会話の流れでわからない?」 馬鹿にしたような言い回しに腹を立てるだけ無駄なのは十二分に理解しているので何も言わずに歩き出す。 当然のように隣を歩く英士は蒸し暑さを感じているのかいないのか、相変わらずの涼しげな顔。 ……ていうか何でいるの。湧き上がる疑問を口にするかしないか悩んでいると、表情と同じく涼しげな声が降る。 「期待にそえなくて悪いけど別にを迎えに来たわけじゃないから」 「最初からそんな期待してないから」 「そう?」 「そう。…英士がこういうのに参加するのって珍しいね」 「なに、俺が参加しちゃ悪いの?」 「そんなこと言ってない」 「ふうん。明日は特に予定もないし、偶には良いかと思ってね」 女子の参加率高そうだなー。噂を聞きつけて他クラスの子とかも集まってそう。 一年のときもそうだったけど、文化祭の打ち上げなんかのときも英士は毎回断っていたから今日は本当に珍しいのだ。 (きっと二年のときも同じだと思う)(英士ってサッカー以外の団体行動好きじゃないし) つい、と視線を斜め上へ持ち上げて横顔を盗み見る。 数時間前に聞いた言葉は頭の片隅で小さな染みとなって佇んだまま、時折存在を主張するように静かに波立つ。 「――?」 「…、え、なに?」 「それはこっちの台詞。人の顔じろじろ見て面白い?」 「あ、ごめん。ちょっと考え事してた」 「そう。ぼーっとしてると電柱にぶつかるよ」 「そんなに間抜けじゃありません」 「じゃあ昔のは随分と間抜けだったんだ?」 「……いつ聞いたの」 「さあ?」 英士の身近でその話を知っているのはあたしを除けば一人しかいないので犯人探しはするまでもない。 いくら親友だからって何でもかんでも話すのは止めて欲しい。…もしかして結人も知ってるのかなー。 まあ、園児の頃の失敗なんて今となっては時効だけど。 「笑わないでよ」 「笑わせないでよ」 「……ばか」 郭くんね、広島に行くみたい。 (今はまだ、知らなくていい)(鍵を掛けた箱を水の中に落とした) |