水曜日の放課後。……そういえば去年と同じだった。



幼馴染




「…」
「……」

水曜日の六時間目は選択科目だからそのまま帰れるようにうちのクラスではSHRがない。
同じ図書委員になった友達とは選択科目が違うから、授業を終えてそのまま一人で図書室に来たのだ。
カウンター席に座って読書を始めて数分後。
隣の椅子が音を立てたことに気づいて本から顔を上げたら、何故か隣には英士が座っていた。
……うん。今日は水曜日で間違いないし、カウンター当番が水曜日になったのも間違いない。
当たり前の顔をして座っている英士の横顔を眺め続けて数秒。漸く口を開く。

「……英士さあ、違うクラスだよね?」
「そうだけど」
「あたし水曜日が当番って言われたんだ」
「合ってるよ」
「じゃあなんでクラスの違うあたしと英士が同じ曜日にカウンター当番なの?」

可笑しい。どう考えても可笑しい。
だって無事二年生に進学して、英士とは違うクラスになったのだ。
それなのにどうして今あたしの隣に座っているのは英士なんだろう…?


英士とペアだったのを抜きにすれば図書委員は割と好きだった。
元々読書が好きだからカウンター当番の時間は好きな本を読んでいたし、
司書さんと仲良くなったお陰で読みたい本を図書室に入れてもらったりしてたし。
(職権乱用?)(いやいや、リクエストは誰でも出来ます!)
それに図書委員の任期は一年間だから、途中で委員会を選び直さなくて済むのも楽だ。
流れで入った去年とは違って今年は自分で選んで入った図書委員。
ついでに言えばペアは去年も同じクラスだった仲の良い友達だ。
…それなのにどうして今あたしの隣に座ってるのは英士なの?あたしのペアはどこ行った?

「聞いてないの?」
「聞いてないから今訊いてるんだよ」
「俺のクラスの図書委員とのクラスの図書委員付き合ってるんだよね」
「…え?もしかしてもう一人の委員って加藤くん?」
「そう」
「……ええと、誰の提案でこうなったの?」
「俺」
「そう英士……はあっ?」
「なにその顔。俺だって偶には気を利かせたりするよ」

心外だと眉を寄せた英士に思わず苦笑い。
だって英士、基本的に自分が興味ないことには冷たいくらい無関心なんだもん。
顔に出さないように気をつけながら、数日前を思い出す。
最初の委員会があったあの日は熱が出て学校自体を休んでたんだよね。
こんなことになるんだったら這ってでも来るべきだった。
…あぁでもあたしと英士がペアになることであの子が彼氏と週に一度こうして隣に座れるんだったら……
たとえ這って来ていても結果は同じだったかなあ。

「でも何で教えてくれなかったんだろう?」

当番が水曜日になったことは聞いてたけど、英士とペアになったことは聞いてない。
てか知ってたらこうして驚いたりしなかったし、心構えも出来たのに。

「あぁ、そういえば俺から話しとくって言ったんだった」
「…」
「まあ良いよね、今話したんだし」
「……いやいやそれなんか違う」
「何か問題ある?」
「問題っていうか……気持ちの問題?」
「…なに、俺とじゃ嫌なの?」

若干低くなった声に気づいて改めて英士を見る。
怒っているというかこれは、

「拗ねてる?」
「…は?」
「え、あっ!何でもない。独り言です」

ぶんぶんと首を振って否定すれば、英士は少しだけ眉を寄せたけれどそれ以上の追及は止めてくれた。
うっかり口に出しちゃったけど拗ねてるって思ったのは本当だ。
…でもそれって、なんていうか、


「また一年、水曜の放課後は一緒に過ごせるね」
「…嬉しくない」
「でも嫌じゃないんでしょ?」
「……そう、だけど」
「俺は嬉しいよ」
「え?」

が俺と一緒で嫌じゃないことが嬉しい」

ってほんと、すぐ顔に出るよね」
「そんなこと言うの英士だけだよ」
「俺にだけは素直ってこと?」
「違います。英士が目敏いってこと」

だってあたしは嘘も隠し事も得意なんだから。……英士以外には、だけど。
なんで英士には見抜かれてしまうのか不思議でならない。

熱を帯びた顔を隠すように本に視線を落とす。
英士と一緒なのが嫌だと思ったあたしに対して英士が抱いた感情。英士の顔を見て、あたしは拗ねていると思った。
怒ったんじゃなくて、拗ねてるって思ってしまったんだ。
どうでも良い相手だったら不快には感じても拗ねたりしないよね……。
自惚れてるみたいだけど、そうじゃない。だってあたしは知っている。

……この人、あたしのことが好きなんだよなあ。

改めて自覚して、だけどどうしたら良いのかわからなくて、
開いたままの本を顔に押し付ける。勿論 本が傷まないように加減するのは忘れない。
隣に座った英士に気づかれないように本に隠れたまま小さく吐息を零す。
一馬に恋をしていたと思い込んでた今までとは違うのだ。
どうしようかなー。口の中で呟いて、でもまずは赤くなった顔をどうしようと眉を寄せた。
(てか本で顔は隠せても耳までは隠せなかった)(指摘されて気づいたけど、当分顔が上げられない)