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上手なさよならの仕方なんて知らなくていい。
気づかせてくれたのは、



幼馴染




「どうしよう、あたし……一馬にあげるさよならが見つからない」


紡いだ言葉が空気に溶ける。
指先にふわりと乗った小さなうさぎも、すぐに形を崩してしまった。

たえられなかったのは、


「それを俺に言うの?…優花って、時々すごく残酷だよね」

「知ってたけど」―零すように わらう。
背中越しに聞こえた声を合図に止まってしまった足の動きを再開させる。
しゃくしゃく、しゃくしゃく、
ほんの少しだけ積もった白があたしによって崩される。
雪というよりも氷に近い白にくっきりと残る汚れた靴跡。

――これは、あたし

「自分でもわかってるの。これはきっと、恋じゃない」

あたしは一馬が好きだ。大好きの言葉に嘘はない。
でもそれは、綺麗な感情じゃなかった。もっと複雑で、ぐちゃぐちゃで、汚れていた。

あたしは一馬に依存していたのだ。

いつだって隣にいるのが当たり前で、いつだってあたしの望むものをくれた一馬。
あたしの、いちばん。


「あたしは一馬に執着してたんだよ。笑顔も優しさもぜんぶ、あたしのものにしたかった」

「一馬は物じゃないのにね、」―落とすように わらう。
あたしはまるで、お気に入りのオモチャを取られまいと必死になる子供だ。
だけどあたしはそれを認めたくなくて、認められなくて、なけなしのプライドで一馬のしあわせを願おうとした。
(あたしのいない、しあわせ)(隣を埋めるのは他の人)

「十年も、独り占めしてたんだよ?一馬の隣っていう特等席に座れる女の子はあたしだけだったのに、」

あたしが座っていた椅子は「幼馴染」。それ以外の椅子になんて座ろうとしなかった。
だって、「恋人」の椅子はいつ崩れてしまうかわからないから。
不安定なあの椅子じゃ、ずっと隣にいることが出来ないと思ったから。
変わらない場所、変わらない関係
それを最初に望んだのは、あたし。


「…。――優花だけじゃないよ」
「、え?」
「依存や執着心で言うなら一馬だって同じだ。一馬だって優花に依存してる」
「…だけど一馬はあたしとは違うよ。間違えたりしなかった」
「依存から成り立つ恋愛もあると思うけど。執着心も湧かない人と付き合ったりしないだろ」
「……うん、そうだね。」

下ばかり見ていた顔を上げて雲に隠れた光を探す。
隠すのはもう止めよう。綺麗な自分を保とうと必死に足掻くのはもう止めだ。

「だけどこれは恋じゃない。一馬への好きは、違う名前だと思う」

幼馴染以外になるつもりはない
現実を突き付けたのは一馬じゃなかったけど、あれからずっと考えてたんだ。

進まなければいけないと思った。認めなければだめだと思った。

あたしと一馬はきっと似ていて、いつからか互いの理想を押し付け合ってたんだと思う。
英士や結人が言うように、互いに求めあって依存しあっていた。
あたしはどこかでそれに気づいていて、…だから、恋人の椅子はあんなにも不安定に見えたんだね(始める前から終わりが見えていた)

さよならが必要だ。互いの理想で溺れる前にあたしは一馬にさよならをあげなきゃいけない、のに、
……やだなあ、さよならなんてしたくない。どんな言葉でさよならをすれば良いのかわからない。
だってだいすきなんだもん。たとえ歪だとしても、名前の見つからない大好きを手放したくないよ。


優花が納得したならそれで良いけど、なんでそこからさっきの言葉が出てくるの?」
「さよならが見つからない?」
「そう、それ。優花の気持ちに区切りがついたからってさよならする必要なんてないでしょ」

さも当然とばかりにあっさりと告げられた言葉に瞠目する。
いつの間にか隣に並んでいた英士をちらりと見上げ、眉を寄せられた表情に今の言葉が自然に零れたものだと気づく。
……あぁ、なんだ。このままで良いんだ。上手なさよならなんて、見つける必要ないんだね。
ふ、 小さく笑えば切れ長の目が細められた。

「教えても良いけど、英士泣いちゃうよ?」
「何で俺が泣くの」
「あたしが一馬のことが大好きで、一馬もあたしのことが大好きだから」
「……なにそれ」
「一馬が泣かないさよならの仕方はわかんないなって。あたしは誰かさんと違って、好きな人が泣くのは見たくないから」
「へぇ、言うようになったね」
「お陰さまで。…泣く?」
「泣くわけないでしょ。ほんと、優花って残酷」
「うん、知ってる」

さよならがあげられない理由が変わったのは、何気ない英士の一言。
心の底から嫌そうに顔を歪めた英士にあたしは噴き出すように笑った。
(その後すぐにぺしりと頭を叩かれたけど)(暴力反対!)