暇を持て余した結人ほど面倒なものはないと思う。 幼馴染 「一馬はを基準に考え過ぎなんだよ」 突然出てきた自分の名前にぎょっとする。 顔を上げれば、フォークに突き刺したイチゴを片手に結人が珍しく真面目な顔をしていた。 今日は天皇誕生日。つまりクリスマス目前なわけで、 いつものメンバーで恒例となっているクリスマスパーティーの真っ最中だ(やることはいつもと変わらないけど) そんな中結人が例の如くクリスマスはどうすんだと一馬をからかっていたんだけど、何でそこであたしの名前が出てくるの? いつものことだと放置してたので話の流れがさっぱりわからない。 「世の中の女が全員美味いケーキが作れると思ったら大間違いだ」 「んなの知ってる。つーかケーキ限定かよ」 「例えだよ例え。ケーキっつったら菓子の代表だろ」 今食べているイチゴと生クリームたっぷりのケーキは結人の要望に応えてあたしが作ったものだ。 よくわからない話に口を挟むのも何なので、二人の会話に耳を傾けながら大人しくケーキを咀嚼する。 「不味くても美味いって言う。自分の為に作ってくれたんだからそれが最低限のルールだろ」 「不味いなんて言ってねぇよ」 「じゃあ顔だ。お前すぐ顔に出んだもん」 「それはっ……」 「とにかく!女子がみんなあーだと思うな」 ちょっと待て。あーって何だ、あーって。 「食い物で人指すな」―まるで指をさすようにイチゴをびしっと向けてくる結人に一馬がすかさず注意した。 ちなみにあたしと同じく無言の英士は、相変わらず我関せずでベッドに寄り掛かって雑誌を読んでいる。 「ちゃんだって今は失敗しててもそのうち上達すんじゃねぇの」 「…」 「ま、あれだ。そんなかじゅまくんには結人サンタから胃薬のプレゼントー」 「そこまで酷くねーよ!てか別に不味いわけじゃねぇし」 「でも好みの味じゃないんだろ?」 「……そういうわけじゃ、」 「あーヤダヤダ。これだから嘘が下手な男は困るんだよなー」 「うっせ」 「そもそも一馬の好みっての手作りだろ?そんなんお袋の味みたいなもんじゃん。求めるだけ無駄。てか酷」 「……」 「比べんなとは言わねぇけどさ、絶対言うなよ。これも最低限のルールだかんな」 「……おう」 「で、胃薬いる?」 「いるか馬鹿。そもそもそれただの風邪薬だろ」 良かった、大丈夫そう。 けらけらと笑っている結人と眉を吊り上げている一馬を見て再びケーキに視線を戻す。 さんの料理というかお菓子作りの腕前については前に聞いたことがあったのだ。 結人曰く「可もなく不可もなく」 そしてさん曰く「死ぬほど不味くはないけど、もう一度食べたいとは思わないかなー」らしい。 (これも結人から聞いた)(ちなみに気にした風もなく笑いながら言ってたみたい) 「にしても、今年のクリスマスもこの面子か」 「嫌なら来んなよ」 「うっせ彼女持ちは黙ってろ。お前にはクリスマスを独り身で過ごす人間の切ない心がわかんねーんだよ」 「そんなに一人が嫌なら誰かと過ごせば良いだろ。同じ学校のヤツとか」 「俺はみんなの若菜くんなの。んな簡単にいかねーっつの」 「結人意味わかんねー」 「一馬じゃ話になんねー」 「…のやろ、」 「あ、そだ。どーよ、この際サミシイ独り身同士付き合っちゃう?」 「……。…は?」 再び挙がった自分の名前に顔を上げると同時に今度はあからさまに眉を寄せる。 視線の先の結人はと言えば、にやにやと楽しそうな笑みを浮かべていた。 …これは多分、いや、絶対楽しんでるな。嫌な予感に自然と口許が引き攣る。 「……えーと、突然どうしたの?」 「よく考えりゃの菓子作りの腕が上がったのって俺のお陰じゃん?」 「確かに結人が食べたいって言うから色んなもの作るようになったけど…」 「甘い物好きな俺としては、やっぱ彼女にすんなら菓子作りが上手なヤツが良いわけ」 「へぇ」 「で、一馬ほどじゃないけど俺とだって長い付き合いだからお互いのことそれなりに知ってんだろ?」 「…まぁ、それなりには」 「だったら『私とサッカーどっちが大事なの!?』なんてベタな展開にもなんねぇだろーしさ、俺としては万々歳なわけ」 「……それで?」 「手始めに明日か明後日デートでもすっか!」 結人がふざけているのはわかっているので聞き流す程度に相槌を入れていたが、よくわからない結論には呆れて物も言えない。 ――そんなあたしの代わりに、静かな声が割って入った。 (……、)(…あれ?) |