先の鋭い尖ったものとか、近くに落ちてないかなー。



幼馴染




中学では男女でペアを組まなければいけなかったけど、高校は自由だった。
仲の良い友達と同じ委員会に所属するというのが自然の流れだけど、あたしのグループは奇数
(グループっていっても、あたしが仲良くなった子たちは割と自由だ)(個人行動も多い)
誰か一人が余るのは仕方ないことで、公平なジャンケンによるペア決めであたしが余っただけのこと。
そしてあたしは、カウンター当番が面倒だからなのか不人気だった図書委員を選んだんだ。
いくつかのグループが出来てはいるものの、うちのクラスは全体的に仲が良いので誰と一緒になっても構わなかった。
――と、思ってたんだけどね。


って馬鹿だよね」
「……喧嘩売ってるの?」
「買う?」
「買わない」

きっぱりと断れば隣から笑い声。
英士が図書委員になるって知ってたら絶対に選ばなかったのに。
部活には入ってないけど英士にはサッカーがある。だから毎週仕事がある委員会は選ばないと思ってた。

放課後は部活に行く人が殆どだから、図書室に来る人はあまりいない。
部活に所属はしていないけれどサッカーに忙しい筈の英士が隣にいるのは、当番を決めるときにクラブが休みの曜日を選んだから。
一ケ月前に戻れたら全力で阻止するのになー。
委員会は前期と後期で新しく選び直すのに、何故か図書委員だけは一年間同じメンバーで行うことが決まっているらしい。
だからあたしはこの一年間、水曜日の放課後は学校を休みでもしない限り英士の隣に座ることになる。
…別にね、並んで仕事をするだけなら良いの。だけど基本的に人がいないから、英士が普通に話しかけてくるんだ。

が口を挟まなければ一馬は彼女と別れたんでしょ」
「…英士は親友が悲しんでも良いの?」
「一馬が自分で決めたことだったら仕方ないよ」
「……」
「放っておけば良かったのに。そしたら一馬は彼女と別れて、今頃と付き合ってたかもしれないよ?」
「……、本当に意地が悪いね」
「何が?」

わかってるくせに。
読み途中の本から顔を上げて隣を睨む。

「そんな風にして一馬と付き合えたって嬉しくない」
「弱ってるところに付け込んだり出来ないってこと?」
「…」
「…ほんと、は馬鹿だね」

黙って視線を本に戻せば、隣から呆れたような溜息。
なんだコイツ、あたしが一馬と付き合えば良かったとでも思ってるの?
あたしのこと好きだとか言ったくせに…ううん、そのことは置いとこう(地雷は踏まないに限る)

「それにさんは浮気なんかしてなかったんだし、これで良かったんだよ」

嬉しそうな声で報告してきた一馬を思い出す。
さんと一緒にいたのは親戚のお兄さんで、一馬に言わなかったのは一馬に内緒でプレゼントを買おうとしてたから。
あの二人が恋人同士になったのは十二月くらいだったけど、友達になったのは丁度今から二年前。
さんにとってはそれも大事な記念日だからプレゼントをしたかったんだ。
去年もプレゼントを貰ったから一馬もその日を覚えてたけど、さんと知らない男のツーショットに驚きすぎてそんな想像は出来なかったらしい。

「それくらいの想像も出来ないなんて、一馬も間抜けだね」
「しょうがないよ。一馬は鈍感だもん」
の気持ちにも気づかないくらいだし?」
「……いつも以上に突っかかってくるけど、やっぱり喧嘩売ってるの?」
「買う?」
「買いません」

くすくすと楽しげな笑い声。この本を顔面に投げつけてやろうかと思ったけど、なんとか理性で押し止めた。
英士がどうとかじゃなくて、本が可哀想だからだ。

「でも、は人のこと言えないでしょ」
「あたしは英士に喧嘩売ったりしないけど」
「どうだか」

どういう意味?と顔を上げかけて、一人分程の距離があった筈の英士がすぐ横にいて目を瞠る。
少し動けば頭がぶつかりそうだ。慌ててあたしが後ろに下がるとその分英士が身を乗り出す。
距離を取ろうにもあたしは壁側で、すぐにこれ以上動けなくなった。

「―えい、」

すぐ傍で熱い息を感じて反射的に目を閉じる。
心臓が耳に移動したみたい、どくんどくんと騒がしい。

「鈍感」
「〜〜ッ、!」
「好きな人の口から他の男の話ばっかり聞かされて楽しいわけないでしょ」

びくりと肩が跳ねて、かぁっと耳が熱を持つ。
慌てて右耳を押さえて睨みつければ、本当に楽しそうに、意地の悪い笑みを浮かべた英士と目が合った。
文句の一つでも投げてやろうと思ったのに、あたしの口はぱくぱくと動くだけで音を発してくれない。

「お疲れ様、さん」

チャイムと同時にカウンター席から離れた英士は、涼しい顔で図書室から出て行った。
(水曜日なんて消えてしまえ!)(投げつけた本はドアにぶつかって落ちた)