捻じれてしまったのはいつからだったのか――なんて、どれもこれも今更過ぎる。
だけどそれでも、修復不可能なわけではないんだ。



幼馴染




「英士となんかあったんだろ」
「……」
「別にさ、昔から英士がに話しかけないとか、ぶっちゃけそんなん俺はどうでも良いわけ」
「……気づいてたの?」
「まーな。あ、でも一馬は気づいてねぇよ。英士そういうの上手いし」
「そう、」
「だけど一馬に彼女が出来た頃からお前らなんか変だろ。特に、英士に対して余所余所しくなった」

結人の視線は英士みたいに射抜くようなものではない。
だけど、先回りして逃げ道を全部塞がれたような、どんな嘘を紡いでも太刀打ちできないような妙な感覚を覚える。
それから「一馬に対して余所余所しくなるならわかるんだけど」と前置きした結人にあたしの気持ちも気づかれていたことを知る。

「だって、英士が話しかけてこないこと気づいてなかっただろ?」
「…うん」
「アイツほんと上手いからなー。で、が英士のこと嫌いになっても俺としてはやっぱりどうでも良かったわけ」
「……。どうして?」
「俺関係ねーし。それにもしそうなってもだったら一馬のこと気にして俺らの前では今まで通りにしようとするかなって」
「………」
「でもこの前―バレンタインの前日?英士話しかけたじゃん。しかも俺らの前で」


「今まで徹底してたくせにさ――見てらんなかったんだろうな、の泣きそうな顔」


微かな痛みを感じるような空気が、結人が笑うことで一変する
いとも簡単に空間を支配してしまう結人に、驚きよりも先に苦笑にも似た笑みが落ちた。

……降参だ。英士の態度にしてもあたしの気持ちにしても、結人は何も知らないと思っていた。
(だっていつも、何も知らない顔で笑ってくれた)(笑い飛ばしてくれた)
あの時だってそう。ゲームに夢中だった筈の結人が泣きそうなあたしに気づくわけがないと思っていた。
それなのに実際はどうだろう。彼はすべて知っていたのだ。気づいていたのだ。
英士のことに関しては、当人であるあたしよりも遥かに早く気づいていたんだろう。

「結人には敵わないなぁ」

息を吐き出すように、笑みを零すようにすんなりと声を出すことが出来たのもまた、結人が変えてくれた雰囲気のお陰

「とーぜん!」
「いつから知ってたの?」
「あー…気づいたら?つか、俺に言わせりゃ気づかない方が変」
「……そうかなぁ、」
「一馬がの気持ちに気づかないのは鈍いとかじゃなくて隣にいるのが自然過ぎるからだろうな。てかアイツに関しちゃ鋭いし」
「そんなこと、」
「今更照れんなって!―それに、嘘つくの上手いからな。そーいうとこ俺とそっくり」

カラカラと笑いながら「キャラ被るだろー」なんておどけて見せる結人がいつも通り過ぎて、次の言葉を聞き逃しそうになった。
――大丈夫、被ってなんかないよ。あたしは結人みたいに周りを気に掛けたり出来ないから。

「英士に好きだって言われたんだろ?」

悪戯っ子のように笑う顔に一瞬停止した後、ぱちりぱちりと瞬きを繰り返す(もうほんと、敵わないなあ)


「英士は何も言ってねぇから安心しろー。ただ俺がスゴイだけ」
「……もう、反則だよ」
「結人くんは常にレベル100だかんな。……で、どうすんの?」

結人の顔にも声にも茶化すような色はない。それどころか、気遣うような色を含んでいる。
そんな結人を見ながら、あの日以来会ってない英士の顔と、あの日この場所で言われた言葉を思い返す。
――答えなんて、出るわけないんだ、

「返事はいらないって、知っててくれるだけで良いって言われた」
「うわっ、アイツらしー」
「正直どうしたら良いのかわかんない。だって、嫌われてると思ってたし、それにあたし…」
「一馬のこと大好きだもんなあ」
「……うん」

今更だけど結人の口からはっきりと言われた事実に少しだけ言葉が詰まる。
なんかこう、照れくさいというか……

「ずっと聞きたかったんだけどさ、って一馬と付き合いたかったの?」
「……。違う、かな。なんだろ…わかんないけど、」
「英士もおんなじなんじゃね?の気持ち知ってるわけだし、付き合うとかじゃなくてただ」
「……知って欲しかった、だけ?」
「ん、それ。英士って、と似てると思うんだよなあ」
「あたしはあそこまで意地の悪いこと言わない」
「わかってるって!なんつーの?立場とかそんなん?好きなヤツに対する考え方とか」

言われてふと考える。あたしは一馬にどうして欲しかったのか、どうしたかったのか。そして、どうしたいのか、

付き合ってくれなくていい。好きになってなんて言わない。
だけど、この気持ちは否定しないで。
受け止めてくれなくていいから、否定だけはしないで。

浮かび上がってきた想いに目を見開く

「…!」
「わかった?」

――そうだ、付き合いたかったわけじゃない。そうじゃないの。
あたしはただ、笑った顔が見たかっただけ。嬉しそうな、幸せそうな顔が見たかった。
彼女という肩書が欲しかったわけじゃない。

頷いたあたしに、結人はやっぱり楽しそうに笑う
その顔はどこか満足そうにも見えて――あの日英士と向き合ったこの場所で、二人して顔を見合せて笑った。
(同じ場所でも相手が違うと全然違うんだね)(やっぱり結人には敵わないや)