真実から顔を背けるようになったのはいつからだろう? 幼馴染 「ねーねー!門の所に超綺麗な人いるんだけど!」 「えー、見えないよ…女?男?」 「男!学ラン着てる」 卒業式の予行練習(立ったり座ったりで眠いだけ)(先輩たちごめんなさい)が終わって 体育館からぞろぞろと移動している最中、少し離れた方から聞こえる声に欠伸が引っ込んだ。 綺麗という形容詞が似合う学ランを着た男子 3つのキーワードに反応してしまうのは、ぴたりと当てはまる人物を知っているから。 「ていうか、今走って行ったの真田じゃない?」 そして、更に加えられたキーワードに無理に押し込められていた息が勢いよく飛び出した――「ちょ、大丈夫!?」 サッカー以外で目立つことが苦手な一馬がこんな風に注目を浴びることを厭わない相手なんて片手で足りるほどしかいない。 あたしの位置からでは門を見ることはできないけれど、確認するまでもないのだ。 「、」 「なに?」 「公園で待ってるから学校終わったら来てほしいって」 「…それ、誰からの伝言?」 「英士だけど」 興味津津といった視線を八方から浴びながら伝言を伝えに来てくれた一馬には悪いけど、どうせなら伝言ゲームにして欲しかった。 (だってそうすれば途中で内容がねじ曲がったことにできる!)(つまりは行きたくない) 「……一馬も一緒だよね?」 「あー、俺このあとに会うから無理なんだ」 「……。そう、わかった。ありがとね」 「ん、じゃあな」 あぁそうか、今日は練習休みだって言ってたもんね。 毎日連絡してても、会える日はやっぱり顔見て話したいよね。 溢れ出しそうになる。溢れ出しそうになるよ。ほんの些細な一言で、表情で、 だけどそれを溜息と一緒に飲みこむことくらいあたしにとって造作もないことなのだ。 「報われない想いに縛られている……か、」 縛られているのだとしたら、縛っているのはきっと―― 「来ないかと思った」 「来るよ」 「一馬が伝えてくれたから?」 「……違うよ。学校まで来たってことは、それなりの用があるってことでしょう?無視なんて出来ない」 あたしが声を掛ける前に本から顔を上げた英士は、相変わらずの憎まれ口をたたきながら隣に座るように促す。 いい加減あたしも受け流すことを覚えるべきなのだ。今までだって極力そうしていたつもりだけれど、今まで以上に。 「にとってそれなりの用なのかはわからないけど」 そう言って何の説明もなく差し出された袋に意味が分からずに眉を寄せる。 手を伸ばすこともなく凝視していると、早くしろと言わんばかりの溜息 一方的にあたしが悪いと言われているようで何だが癪だけれど、こうしていても仕方がないので手を伸ばした。 「なに?……ブレスレット、?」 薄ら中が透けて見える淡い桃色の袋の中身は、サイズや感触から言ってもどうやらブレスレットのようだ。 中身がわかったからといって――寧ろ、わかったからこそ意味が分からない。どうして? 頭に浮かぶのは疑問符ばかりで答えに繋がるようなものが見つからない。 「先月のお返し」 「お返しって……バレンタイン?え、だってあれ、別にそんなんじゃないし…」 一月前の記憶を引っ張り出してそれらしいキーワードを口にすれば、涼しげな表情のまま頷かれた。 確かにそんなことを言っていた気もするけど、でもまさか! ていうかアクセサリーだからそれなりの値段したんじゃないのかな。 でも箱に入ってたわけじゃないからそうでもない? 「安物だよ」 「…なにも言ってないのに」 「違った?そういう顔してたから、てっきり気にしてるんじゃないかと思ったんだけど?」 「……」 「高価なのが欲しいんだったら一馬にでも頼んだら」 「……。そうだね、一馬なら英士と違って意地の悪いことも言わないもんね」 「――今度は彼女に悪いって言わないんだね」 「一馬だったらそんなこと気にしなくて良いって言ってくれるよ」 「そうやって一馬の優しさを利用するんだ?」 「!、…」 「沈黙は肯定ととるけど」 痛い、いたい。 射抜くような鋭い瞳も、顔色一つ変えないその態度も、ぜんぶ。 全部が痛くて、違うって言いたいのに言えなくて。……あぁ、そうか。そうだよね、 「……英士には、わかんないよ」 (ほんとはずっと、利用してたんだ)(――ずるいのは、あたし) |