二人の前では何事もなかったかのようにしてるのが実に憎たらしい! 幼馴染 突然目の前に現れた英士に、あたしは不覚にも驚いてしまった。 あっちからしたら突然じゃないのかもしれないけど、あたしにしたら突然だ。 しかも昨日の今日とあっては英士の顔をまともに見ることが出来ない。 勿論それは傷ついてるからとかじゃなくて、なんか妙に悔しいからだ。(あたしも嫌いだってわかったし) 「え、あ、一馬は?」 「が来ないから心配して迎えに行ったよ」 迎えに行くといっても、あたしと一馬の家は直ぐ隣だ。 少しだけ耳を澄ますと、開けたままの窓からインターホンの音が聞こえる気がしなくもない。 英士の言いなりになっていることが嫌で昔みたいにベランダを使って一馬の部屋に来たけど、 当の一馬はあたしが玄関から来ると思っていていつものように待っていてくれたんだった! これはしまったと、仕方なく部屋に戻ろうとすると「待って」と静かな静止の声が掛かった。 無視するとあとが怖い気がするので振り返ろうとしていた微妙な体勢を英士の方に向ける。 「…何、」 「もう来ちゃったんだから態々戻ることないでしょ」 「でも一馬待ってるし」 「……結人、もうこっちにいるから一馬呼び戻して」 少しの間の後、英士はたった今一馬の部屋に入ってきたらしい結人に声を掛けた。 そんな結人は英士の言葉を聞き流してひょこっとベランダに顔を覗かせる。 「あ、結人昨日ぶり」 「おー、そんなとこから来てっと一馬に怒られんぞー」 「そんな話は良いから早く」 カラカラと笑う結人を英士が急かすと、当然結人は不満そうに口を尖らせる。 (だって折角階段上ったのに、また下りなきゃいけない)(てか英士が行けば?) 「えー、てかアイツ携帯は?」 「そこに置きっぱなし」 「じゃぁこっから叫べば良いんじゃね?」 「近所迷惑でしょ」 「…ちぇ、わーったよ」 結人は大袈裟に肩を竦めてから渋々階段を下りていった。 暫くすると下の方から小さく「一馬ー」と呼ぶ声が聞こえる。多分、真田家の玄関から呼んでるんだ。 それは暫くすると聞こえなくなったから、もう直ぐ一馬と結人が部屋に来るだろう。 「いつまでもそんな所にいないで入ったら」 昨日の一件以来、英士に何か言われるとどうしても反抗したくなってしまう。 自分の部屋に戻ってやろうかとも考えたけど、それは一馬と結人に悪いから大人しく上履きを揃えて脱いで部屋へと上がる。 「、何でそっから入ってくんだよ…」 「だってこっちの方が楽なんだもん」 「でも危ないって言っただろ」 「…あーうん、ごめんね」 部屋にやって来た一馬は、開口一番にあたしを軽く窘めた。 それを結人が「ま、偶には良いじゃん」なんて笑いながら流してくれる。 結人のさり気無い気配りが凄くありがたい。だってあたしは、一馬に本気で何か言われたら言い返せないから。 「偶にはとかそういう問題じゃなくて、」 「てかさ、が来ないからって態々迎えに行かなくても良くね?」 「何でだよ」 「だっての部屋目の前だぜ。そっから話せるし急に気が変わってやっぱ来たくなくなったりすんだろ」 「は昔から一回言ったことは守るし。それにさっき……」 ヤバイ。結人が話題を逸らしてくれたと思って安心してたのに、結局はあたしに戻ってきちゃった! ちらりとあたしに視線を向け口篭る一馬に咄嗟に首を横に振る。 優しい一馬はさっきのあたしの対応がいつもと違ったから心配してくれてるんだ。 それはちょっと嬉しいけど、だけど一馬も結人も昨日のあたしと英士とのやり取りを知らない。 だってあの時二人は席を外してたんだから。(そもそも二人の前で英士はあたしに話しかけない) 「一馬、携帯光ってるよ」 ぎゅっと眉間に皺を寄せた一馬が口を開くよりも、不思議そうに首を倒した結人が口を開くよりも早く、 絶妙のタイミングで英士が口を開いた。 (ちょっとだけ感謝、かな)(ほんとにちょっとだけどね) |